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イエノミクラブ編集部
アイスワインとは?
ドイツのアイスワインが近いうちに“絶滅”する!? そんな話を聞いたことはありませんか? アイスワインは、その名の通り凍ったブドウを収穫して造るとろけるような極甘口のワインのことですが、実はこのアイスワイン、気候変動の影響で造るのが一部地域では非常に難しくなっているのです。
そもそも、アイスワインの生産は非常に大きなリスクを伴います。アイスワイン用のブドウは、通常の収穫時期よりもはるかに長くブドウの樹の上に残ります。そのため、鳥などの野生動物に食べられたり、自然に樹から落ちてしまうリスクが他のワインよりはるかに多く生じてしまうのです。
アイスワインの生産はドイツやオーストリア、カナダといった国々が有名ですが、ドイツではマイナス7度、カナダではマイナス8度以下という法律の規定があるため、その気温まで下がらなければそもそも収穫ができません。そして気温が十分に下がり切らないとブドウが腐敗してしまうリスクが生じ、極端に下がりすぎると今度は凍りすぎて搾汁できないということにもなります。
リスクに次ぐリスクに加え、収穫は夜間や早朝に行う必要があり、摘み取ったブドウは即座に暖房のない空間で作業をする必要に迫られます。その上、1ヘクタール(100メートル×100メートル)の畑から、わずか300〜500リットル程度しか取ることができないのです。リスクがある上に作業は厳しく、造れる量はわずかです。
アイスワインと気候変動
ドイツやオーストリア、アメリカ、カナダでは、「アイスワイン」と呼ぶためにはブドウが自然に凍結しなければならないという規定があります。たとえば冷凍庫で凍らせたブドウは、アイスワインとは名乗れないのです。
気候変動が問題になるのはここで、以前よりもブドウ産地の冬が暖かくなってきたことで、多大なリスクをとってアイスワイン用にブドウを収穫せずに残しておいたとしても、最終的に温度が下がり切らないという新たな、そして決定的なリスクが生じているのです。
歴史を振り返ってみると、アイスワインに関するたしかな記録が残るのは1830年、ドイツ・ラインヘッセンでのこと。1829年は非常に寒さの厳しい冬で、その冬に一部のワイン生産者が家畜の餌にするためにブドウを収穫せずに樹上に残しておいたところ、それらのブドウが非常に甘い果汁を生むことがわかり、それを圧搾することで最初のアイスワインが生まれたのだそうです。アッと驚く発明は、ときに意外なところから生まれるものですね。
以降、アイスワインは特殊な気候条件のときに造り続けられ、20世紀に入ってからは人気が上昇していきます。しかし、そこに気候変動が影を落としているのです。とくに影響を大きく受けているのがアイスワイン発祥地・ドイツです。
2019年に、ドイツ政府は1881年から2018年にかけてドイツ国内の平均気温が1.5度上昇しているというデータを発表しています。昨今ではドイツでもシラーやメルロー、テンプラニーリョやソーヴィニヨン・ブランといった品種の作付面積が増えているという話も聞かれるようになるなど、ワイン用ブドウ栽培の北限がどんどん北に移動していると言われます。それらは全て、ドイツにおけるアイスワインの生産にとっては“逆境”と言えるニュースです。
アイスワインをそれでも造る理由
それでもなお、ドイツのアイスワインには他にはない魅力があります。極甘口ワインとしては貴腐ワインが有名ですが、アイスワインには香りや味わいに貴腐ワインのような特徴がなく、健康なブドウがそのまま凝縮されたような、極めて純粋な果実の甘味と酸味を味わうことができます。もちろん貴腐ワインには貴腐ワインの魅力がありますが、アイスワインにはアイスワインにしかない魅力があるのもまた事実。
だからこそ、長く樹上に残すことで野生動物に食べられてしまうリスク、自然に落下してしまうリスク、気温が下がり切らないリスクを抱えてなお、気候変動でそのリスクが増してしまってもなお、さらには非常に大変な労働を強いられてなお、醸造家たちはアイスワインの生産に2020年代半ばの今も挑み続けているのです。
とはいえ、このまま地球の温暖化が進行すれば、少なくともドイツでは、アイスワインは早晩「絶滅危惧種」となってしまうかもしれません。ドイツのアイスワイン、飲むなら今のうちかもしれませんね。
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イエノミクラブ編集部