2度の海を越えて辿り着いた、スコットランドの秘島に佇む唯一の蒸溜所

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アイル オブ ラッセイ蒸溜所

空港のあるグラスゴーから、車で北へ進むこと約6時間。スコットランドでも指折りの豊かな自然と、千年を超える歴史が眠るラッセイ島に、初めて生まれた政府公認の「アイル オブ ラッセイ」蒸溜所。昨年、シングルモルトをリリースした話題の蒸溜所を訪ねた。

スコットランドMAP

\私たちが訪れました/

アイル オブ ラッセイ蒸溜所

左より) 代表取締役社長 伊藤、国際部 藤江、ブランドマーケティング部 信田

世界遺産にも指定されている首都エディンバラ。なかでも、歴史的建造物が集まるオールドタウン。写真は観光客にも人気のホリールードハウス宮殿。

ローモンド湖の背にそびえる海抜1748mの霊峰。スコットランドの有名な民謡「ロッホ ローモンド」は聞き覚えのある方も多いだろう。

スコットランドで最も美しいと言われる絶景がどこまでも続く。「007スカイフォール」のロケ地としても有名だ。

「ハリーポッター」で一躍有名となったウエストハイランド鉄道が走る陸橋。ここを過ぎればホグワーツ魔法学校はもう目と鼻の先だ。

スコットランド最大の貯水量を誇る湖。伝説の怪獣「ネッシー」でも有名。周辺の店には絶妙なセンスのお土産が並ぶ。

「翼の島」スカイ島と本土を結ぶ橋。本土側から向かえばその急勾配で、まるで空へ飛び出すかのように感じる。

カルマック社が運営するフェリーに車ごと乗りこむ。約25分の船旅だ。当日は天候にも恵まれ、心地よい風が頬を撫でた。

先史時代からの歴史をもつヘブリディーズの小さな島

スコットランド本土と、タリスカー蒸溜所で有名なスカイ島の間にある、南北約23km、東西約5kmという細長い島「アイル オブ ラッセイ」。6世紀ごろにはスコットランド文化の起源とも言われる、ダルリアダ王国の北端領域であり、北欧諸島の王国の一部だったこともある。その後の研究で、先史時代の住居跡も見つかったというから、この小さな島に刻まれた深い歴史に驚かされる。島にはいまだにゲール語を話す島民が少なくないそうだ。

その小さなラッセイ島だが、近年観光地としても人気を博している。雄大な自然や、ラッセイハウスなどの建造物も魅力だが、その目的のひとつとして注目されているのが「アイル オブ ラッセイ」蒸溜所だ。

曽祖父の意思を受継いだ天才ブレンダー

この蒸溜所は、2017年にビル・ドビーとアラスデア・デイにより創業された。アラスデアの曽祖父はかつてウイスキーのブレンダーだったのだが、ラッセイ蒸溜所が生まれる前の2009年、アラスデアはその天賦の才で今は亡き曽祖父のレシピを現代へと蘇らせた。

「トゥイーデイル」と言うそのウイスキーは2013年にワールド・ウイスキーアワードでタイトルを獲得、その後も安定して高得点を出している。

アイル オブ ラッセイ蒸溜所

しばらくして、もう一人の創業メンバーであるイアン・ヘクター・ロスからラッセイ島での素晴らしいウイスキー造りの可能性を知らされた2名は、息を飲むような絶景を一望する「ボロデールハウス」を買い取り、蒸溜所建設を始めた。

ラッセイ島へ到着!スコティッシュランチに舌鼓

スコットランドでは珍しい快晴の中、ラッセイ島に降りた私たちを迎えたのは美しく洗練された建物。丘にはテラスがあり、暖かな日差しの中でテイスティングを愉しむ観光客の姿が眩しい。

ビルの息子であり、マーケティングディレクターのウィリアムが、ライ麦のサンドイッチとたっぷりのトマトスープを用意してくれていた。この組み合わせはスコットランドの定番らしく、バジルとペッパーで味を整えたスープとライ麦パンが最高の相性だ。

聞けば本土から専属のシェフを雇っているそうで、今回は満室のため断念したが、四ツ星のアコモデーション(宿泊施設)に、立派なバーも併設されている。次回は是非とも宿泊したい。

島の独特な地層が生むスコットランドでは珍しい仕込み水

ランチを終えると、お待ちかねの蒸溜所見学が始まる。正面からはわかりにくいが、蒸溜施設は2つに分かれている。宿泊施設の横の施設にはモルトミルと発酵槽、1対のイタリア製ポットスチルがあり、ここで蒸溜された原酒は細いパイプを通り、裏手の丘にあるもうひとつの施設へ直接送られる。

発酵槽の蓋を開けると、あたりを包み込む華やかな香り。アラスデアによるとこれがラッセイウイスキーの特徴のひとつであり、スコットランドでは珍しいライムストーンウォーターの仕込み水が大きく影響しているそう。この特徴を活かすよう蒸溜器にも様々な仕掛けが施されており、特にラインアームに巻かれた水冷ジャケットを操作することで、鮮明に原酒へと反映させている。

裏手の施設では約20名ほどが、ボトリングや出荷作業を行っていた。島民161名のうち実に10%がこの施設に勤めているそうで、島の雇用を創出し、共に発展していきたいという蒸溜所のモットーが垣間見えた。

すべては最高の3年熟成を生みだすために

蒸溜所の後は、車で10分ほど離れた場所にある熟成庫へ向かう。熟成庫は現在2棟あり、1棟にはシングルモルトに使われる6種の原酒が、もう1棟には「スペシャル」と呼ばれる原酒達が眠っていた。

今回、特別にシングルモルト用の6種の原酒を樽出しでテイスティングさせて頂いたが、非常に個性的な味わいで、訪れた3名ともに好みが分かれる結果となった。この6種の原酒を特製の比率でブレンディングし生まれるのが「アイル オブ ラッセイ ヘブリディアン シングルモルト」だ。

何故このような手法を経るのか尋ねると「あくまで素晴らしい品質の3年熟成を造るため」とアラスデア。3年という短い熟成で原酒のフルーティな特徴を活かしつつ、複層的な味わいを生み出すには、必要不可欠なアプローチだったそうだ。

現在、シングルモルトの構成原酒を樽出しのシングルカスクで愉しめる「NA SIA(6つ)」という、特別な限定品が順次リリース中である。こちらも、是非お愉しみいただきたい。

後ろ髪をひかれる思いで帰路につく途中、フェリーの中でウィリアムから、カンベルタウンとローランドで進行中の2つの新しい蒸溜所の話を聞いた。今後もますます目が離せない。

文/ブランドマーケティング部 信田

アイル オブ ラッセイ蒸溜所
左から私(信田)、マーケティング担当のウイリアム、ブレンダーのアラスデア、伊藤、製造担当のノーマン。

アイル オブ ラッセイ蒸溜所

ISLE OF RAASAY DISTILLERS

アイル オブ ラッセイ蒸溜所

スコットランド出身の起業家ビル・ドビーと、植物学者でありウイスキーブレンダーでもあるアラスデア・デイにより、ラッセイ島に2017年に設立された蒸溜所。高台の丘にある蒸溜所から見渡す景色は絶景の一言で、コロナ禍であっても年間約1万人が訪れる人気スポット。6部屋ある宿泊施設は「SCOTTISH TOURLIST BOARD」で4ツ星を獲得している。

アイル オブ ラッセイ
POINT①

国内唯一の洋酒品評会「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2022」でベストデザイン賞を受賞した美しいボトル。ラッセイ島はスコットランド史の地質学上、非常に重要な地域である。ボトルの凹凸はその地層に実際に粘土をあてて型取りしたもので、アンモナイトなどの化石も見ることができる。

POINT②
アイル オブ ラッセイ(ラベル)

ラベル横面に記されている「161」と言う数字。これは現在の島民数であり、増減するごとに更新していくそうだ。島を愛し、島とともに生きるという同蒸溜所の願いが現れている。

アイル オブ ラッセイ ヘブリディアン シングルモルト R-01.1

アイル オブ ラッセイ
ヘブリディアン シングルモルト R-01.1

アイル オブ ラッセイ蒸溜所の定番シングルモルト。「R-01」「R-02」に続く3作目。ノンピーテッドとピーテッドの原酒をそれぞれ、ライウイスキー樽、ボルドー赤ワイン樽、そしてチンカピンオーク樽の3種で熟成した計6種の原酒を、独自のレシピでヴァッティングしている。

Alc.46.4%

商品番号 514527/700m

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